大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成5年(特わ)2116号 判決

本籍

岡山県浅口郡金光町大字下竹一二六番地

住居

東京都新宿区二丁目一五番一五号大和会館六〇一号

雑貨店経営

平井鉄夫

昭和二六年三月三一日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官富松茂大、弁護人菊地一郎各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一〇月及び罰金二〇〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、東京都新宿区新宿二丁目一五番一五号大和会館六〇一号に居住し、同区新宿二丁目一七番一号サンフラワービル一階において「ルミエール」の名称で雑貨店を、同区新宿二丁目一八番一〇号において「アンデルセン」の名称で飲食店をそれぞれ営むとともに、平成元年一一月末日までは、右二店舗のほか、同区新宿二丁目一四番八号第三天香ビル一階において「メモワール」の名称で雑貨店を営んでいたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、売り上げを除外した上、自己の従業員らが右各店舗の経営者であるかのように装って、従業員らの名義で所得税の確定申告をするなどの方法により所得を秘匿した上

第一  昭和六三年分の実際総所得金額が六五八二万七七三五円(別紙1の修正貸借対照表参照)であったにもかかわらず、平成元年三月一三日、東京都新宿区三栄町二四番地所在の所轄四谷税務署において、同税務署長に対し、その総所得金額が二三二万円で、これに対する所得税額が一六万円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額三〇三九万八二〇〇円と右申告税額との差額三〇二三万八二〇〇円(別紙4のほ脱税額計算書参照)を免れ

第二  平成元年分の実際総所得金額が五五五〇万七八九七円(別紙2の修正貸借対照表参照)であったにもかかわらず、平成二年三月一三日、前記四谷税務署において、同税務署長に対し、その総所得金額が一八〇万円で、これに対する所得税額が一四万五〇〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額二三四八万三五〇〇円と右申告税額との差額二三三三万八五〇〇円(別紙4のほ脱税額計算書参照)を免れ

第三  平成二年分の実際総所得金額が七五五四万七三五七円(別紙3の修正貸借対照表参照)であったにもかかわらず、平成三年三月一三日、前記四谷税務署において、同税務署長に対し、その総所得金額が一八〇万円で、これに対する所得税額が一四万五〇〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額三三五二万三五〇〇円と右申告税額との差額三三三七万八五〇〇円(別紙4のほ脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全部の事実について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書九通

一  能重伸一、滝本美喜雄及び佐藤徹子の検察官に対する各供述調書

一  大蔵事務官作成の現金調査書、普通預金調査書、定期積金調査書、定期預金調査書、有価証券調査書、繰延資産調査書、敷金調査書、預け金調査書、器具備品調査書、建物附属設備調査書、建物調査書、事業主貸調査書、買掛金調査書、未払金調査書、預り金調査書、事業主借調査書、雑所得調査書及び所得控除額調査書

一  検察事務官作成の捜査報告書及び電話聴取書(二通)

判示第一の事実について

一  大蔵事務官作成の土地調査書

一  押収してある所得税確定申告書等一袋(平成六年押第八一号の1)

判示第二の事実について

一  大蔵事務官作成の商品調査書

一  押収してある所得税確定申告書等一袋(前同押号の2)

判示第三の事実について

一  押収してある所得税確定申告書等一袋(前同押号の3)

(法令の適用)

一  罰条

判示第一ないし第三の各事実につき、所得税法二三八条一項(罰金刑の寡額については、刑法六条、一〇条により、平成三年法律第三一号による改正前の罰金等臨時措置法二条一項による)、二項(情状による)

二  刑種の選択 懲役刑と罰金刑を併科

三  併合罪の処理

判示第一ないし第三の各罪は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により各罪所定の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で処断する。

四  労役場留置 刑法一八条

五  刑の執行猶予 懲役刑につき刑法二五条一項

(量刑の理由)

本件は、雑貨店等を経営する被告人が、自己の事業資金を備蓄するとともに、自己が男性同性愛者で結婚が望めないことから、老後の生活資金や実母の扶養資金を蓄積しようと考え、三年度にわたり、合計八六九五万円余の所得税をほ脱したという虚偽過少申告ほ脱犯の事案であり、ほ脱税額は決して少ないとはいえないし、ほ脱率も通算約九九・四パーセントの高率に達している。被告人は普段から日々の売上を記録したメモをその都度廃棄し、そのほかには帳簿をつけずに、営業を行なっていたものであるが、本件のいずれの年度においても、根拠もなしに決めたいい加減な所得金額を算出し、それが実際よりもはるかに少額であることを認識しつつ、しかも自己の店舗で従業員として稼働していた者の名義で確定申告を行い、自己名義では、家賃収入等の若干の雑所得があるにすぎない旨の虚偽過少の確定申告をしていたものであって、その犯行態様は悪質である。また、前記のような動機も特に酌量に値するとはいえない。以上の諸点に加え、この種事案については一般予防の必要性が高いことにかんがみると、被告人の刑事責任には軽視を許され得ないものがあるといわざるをえない。

他方、被告人は、国税当局の査察を受けて以来、事実を認めて調査及び捜査に協力し、国税当局の指導に従い、本件三年度分の所得税の本税及び重加算税を完納し、延滞税も一千万円弱が未納であるがその余は納付済みであること、税理士の指導を受け、二度と同種事犯を犯さないように努めており、当公判廷においても真摯な反省の態度を示していること、被告人には猥褻文書等所持、職業安定法違反等による罰金前科五犯はあるが、そのほかには前科がないことなど、被告人のために有利に斟酌すべき事情も認められる。

当裁判所は、以上のほか一切の情状を考慮して、被告人を主文の懲役刑及び罰金刑に処し、懲役刑についてはその刑の執行を猶予するのが相当であると判断した。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑 懲役一年及び罰金三〇〇〇万円)

(裁判官 安廣文夫)

別紙1 修正貸借対照表

〈省略〉

別紙2 修正貸借対照表

〈省略〉

別紙3 修正貸借対照表

〈省略〉

別紙4 ほ脱税額計算書

昭和63年分

〈省略〉

平成元年分

〈省略〉

平成2年分

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例